棒杖術

竹内流の棒杖術

竹内流では「棒」を武器術の修行の基本としています。棒は「打たば太刀 払えば長刀突かば槍 とにもかくにも はずれざりけり」と道歌にうたわれているように、各種武器の基礎となることから、竹内流では棒術の稽古をかかさず行います。入門者は先ず棒術の形稽古からはじめます。

江戸川橋第五中道場にて

棒術では主に六尺棒を使いますが、竹内流では、この六尺棒を「けんぼう」といい漢字としては「剣棒」あるいは「間棒」を当てます。

竹内流ではこの間棒から、真棒、杖、半棒と、どんどん寸法を詰めて行き、長さ一尺(約30cm)の短棒まで多種多様の長さの棒を使い、それぞれの長さ、特性に応じた型・技を修得していきます。

上級者になれば「槍」も「薙刀」も稽古しますが、自分の身の丈よりも長い得物を扱う方法については、初伝の段階から六尺の剣棒術を稽古することにより、小手先でなくからだ全体で棒を操作する事を徐々に習得していきます。

もちろん「槍」にも「薙刀」には、それぞれの特性を活かした個別の使い方がありますが、体幹を使って長い物を扱うという身体操作は共通するところが多いのです。

棒術の稽古において、上級者は「形」稽古とあわせて「乱れ」稽古も行います。「乱れ」稽古は通常、棒や竹六尺棒などを使用して、剣道や薙刀の防具をつけて安全に行います。

素面、素小手の場合は、棒先を顔面の急所等に当てて怪我をすることがないよう細心の注意を払って行います。軽いタッチの乱れを行うだけでも、間合いと拍子の感覚が得られます。

竹内流は棒術だけとりあげても奥が深いため、「棒術だけを専門に習いたい」という方も道場に来られます。もちろん、ご自身の希望にあわせて、当初は棒術だけ稽古いただくことも可能ですが、棒術の稽古の中では、必ずしも棒をもって立っていられるとは限らないということがわかると、躰術の稽古も自ずから並行して始める方がほとんどです。棒を握ったまま倒されるとか、絡め取られると云う事を経験すると、自分の持っている得物(棒)で自分を痛めない、傷つけないために、受身を取るということが必要になります。

棒術だけを習いたいという方も、受身や躰術等とあわせて多面的に身体操作を覚えるほうが上達が早いように思えます。これは、自分の体の隅々までいきわたっている神経や筋肉を自分の思い通りに動かすことが、棒術においても、躰術においても必要になるからです。

作州に入って棒を振るな

岡山では古来より「作州に入って棒を振るな」といわれていたそうです、これは竹内流が盛んな土地のなかで、百姓町人にも多数の棒術の達人がいて、少しくらいの心得があっても、下手と笑われるからやめておけという意味です。

これは美作領主となった森忠正が城下に竹内流の道場を設け、藩士とともに庄屋たちにもその流儀を習わせた影響もあろうといわれており、野良仕事の合間に棒を振る姿を見て、他国の武芸者が恐れたという逸話です。

現在でも、美作のたいていの家には、竹内流の目録や六尺棒が伝えられているといわれています。われわれは、特に都会では六尺棒を見つけるには町の武道具屋などに行かなければ見つかりませんが、岡山県では県中部地方の上房、御津、久米郡の樫の木が植生上、一番素性がよいとされており、手頃な武器として、いつでも、どこでも間に合う環境の中から棒術が生まれたという背景もあるようです。

また、これは民俗学的な見地になりますが、岡山県のお宮の祭りでは「宮棒」という竹内流から編み出された棒術の手を奉納する祭りが今なお伝わっているほか、竹内流の影響と思われる「棒の手」がその他の地域においても見られます。岡山県備前県民局 観光情報で紹介されているように、志呂神社(建部町)の秋祭りでは、神楽(獅子舞)と棒遣い奉納されますが、棒遣いは竹内流の棒術の所作が取り入れられており、表棒裏棒の「物見の事、腰車の事、さぐり」等の型が神事の一形態になっています。

こうした観点からの研究として民俗武芸の旅 -暮らしの中の古武術において、あの彼が各地に足を運んで取材した「棒の手」が紹介されています。

琉球唐手やカポエラなど、領主が武器や武術の稽古に制約を加えた際に、踊りやダンスでカモフラージュして、武術の稽古を継続したという工夫もみられますが、武術と踊りと音曲をコラボレーションするという発想は、拍子取りやタイミングを取る練習としても非常に有効な工夫だと思います。

また、竹内流には健康法としての棒術の形「竹内流健康棒」もあります(先日、国会図書館で長崎でかつて広まったといわれる棒術体操(竹内流との関係は不明)のアーカーブを見ましたが、棒術を健康法として活用するという発想は竹内流以外にもあります)。

このように、長い歴史の中で、地域の人々の護身の棒術としてだけでなく、「娯楽」や「運動」としての棒術もあり、竹内流の棒術はいかに暮らしの中でも親しまれていることの一例です。

棒術は女性や中高年者にも稽古しやすく、また児童においても自分の身長よりも長い棒を使う訓練が、知識の頭脳と運動の頭脳をバランスよく発達させることことにもなるといわれています。

成人男子に有益なのはもちろんであり、空手等他の武道を行っている方にとっては体軸を形成するとか、体の左右バランスを均衡させるなどの効果があることから体の切れも良くなるなどの効果があるようです。

剣棒とは

「剣棒」は長さ六尺(一間)の棒(通常、樫)であり、尺貫法における物差しとして建築などに使われた「間棒」とも表記されるが、竹内流においては棒とはいえども剣と同様に敬って取り扱うほか、剣と同様の効力を発揮することができるとの意味から「剣棒」と称されます。

これは、棒も「剣のようにつかう」という意味と、棒の「長さが一間(=六尺(約180cm))」あるという意味からなります。また間棒と一口に言っても、その直径は八分~一寸くらいまであるほか材質も様々です。

武道具屋さんの店先にある棒は比較的「太め」のものが多いのですが、これは棒の形状変化(特に曲がり)が少ないものを店頭や在庫に商品として用意するためです。棒は自然物であるため若干曲がる場合がありますが、棒を立てかけないこと(横倒しまたは棒掛に横置きする)こと、曲がった場合には、自分で微調整する(力・熱を加える)など棒の手入れを怠らないことが必要になります。

また古伝に倣い自分の得物を作るということもあります。例えば、棒術の乱れ稽古で使用する六尺竹棒なども作成する場合があります。

書道で「楷書」「行書」「草書」があるように剣棒術にも「真型」「行型」「草 型」があり、真型は棒の中心と棒尻をもって四角四面にきっちり棒を操作するが、行型や草型になると、手の内で棒を遊ばせて棒をより滑らかに操作することになります。

剣棒(間棒)では、「真之形」、「行之形」、「草之形」、「奥棒之形」、真棒では「表之型」「裏之形」と稽古して行きます。剣棒「草之形」と真棒「表・裏之形」は備中伝独自のものであり、棒対棒、棒対剣、棒対素手の形を稽古します。

●剣棒之型(真型・行型、宗家伝では表棒・裏棒(同名)となります)

竹内流の棒術の型名は、非常に素朴なものを感じます。竹内流が領内の武家だけでなく農家でも稽古されたといういわれを感じるようなネーミングです。
(注)下記の写真は形の一部をとらえたイメージです。必ずしも適切な姿でないものもありますのでよくご確認のうえ稽古して下さい。

物見之事
(mono mi no koto)
物見
棒を立てて盾にしてその陰に身を置き、肩の高さに突き出した拳越しに相手を見る。それが「物見の構」です。
門構之事
(kado gamae)
門構
漢字の「門(かどがまえ)」に似ているために「かどがまえ」といいます。
芝引之事
(shiba hiki)
芝引
大きな芝刈り器で草を薙ぐ。そういった動作に見えるということでしょうか。馬の腹あたりに「芝引」という毛がありますが、そこを打つというわけではありません。
腰車之事
(koshi guruma)
腰車
腰の後ろに横一文字に構えた姿勢から、相手の正中線に沿って跳ね上げる型です。
肩崩之事
(kata kuzushi)
肩崩
天秤棒のように肩に担いだ棒から、首や背筋の力で棒を跳ね上げて、面打を繰り出す型です。
鷲之羽返之事
(washi no ha gaeshi)
鷲之羽返
腰構から物見の型をうつことになりますが、鷲が羽を翻すさまをイメージして稽古してください。
鶴之一足之事
(tsuru no issoku)
鶴之一足
右の腰構から棒を散して、左の腰構えになり、左から芝引を打つ型です。かつては岡山の鶴田(たずた)にはがいたそうです。鶴は片足立ちになります。その姿に形をなぞらえたということです。
鯉之水入之事
(koi no mizu iri)
鯉之水入
型の最初に、右の腰構えから腰を捻って右片手で棒を繰り出すし、相手の足の甲を打ち、つま先を打ち、笛を打ち、面を打つ型です。鯉は滝に上ったり、水面を撥ねて水に入ったりしますが、その躍動感をたとえた型です。
飛毛之事(引下之事)
(hige)
引下
右の腰構えから、相手のくるぶしやすねを狙ってうつという様を毛が飛ぶ様にたとえたのでしょうか。あるいは足下を引っ掛けるという意味で命名されたのか、最初に足を打つ形です。
蜻蛉返之事
(tonnbou gaeri)
蜻蛉
蜻蛉は空中でくるりと方向転換をする。その様子に見立てたという説があります。その一方で「とんぼう」を「遁棒」とあてて「相手に背を見せて逃げるときに振り返りざまに使う型」という説もあります。
巡礼之事
(jun rei)
巡礼
お遍路さんが柄杓をつかうしぐさに似ているところでしょうか。
二方絡之事
(nihou garami)
二方絡
前後の敵に対処するという型です。

剣棒(間棒)の「真之型」と「行之型」の形名は同じですが、同じ形について「真之型」と「行之型」を打ち合わせた場合、「行之型」のほうが手が早く、決め手を打つことになります。この真と行を組合せて稽古をする方法もあります。

現代人が歩くときは、同じ側の足と手を出すいわゆる”ナンバ”(右手右足または左手左足を同時に出し、半身を繰り返しながら歩くこと)の動きとは逆に、 反対側の手足を出して体をひねって歩くのが常なので、習慣的に同手同足(同じ側の手と足を同時に出す)の動きに対して、違和感を感じ、すぐになじめないというのは無理からぬことです。

竹内流には、この”同手同足”の動きを覚えるためにも、六尺棒術の稽古を行います。棒術を稽古する場合には、初心者の方だけでなく、稽古の進んだ方でも、左右の動きに大きな違いがないか、足先から手先まで時々確認する必要があります。

体の動きが100%左右均等というのはありえないことかもしれませんが、体の軸を中心として、大きな差異がない程度までには自分の中で調整していきます。このため、副次的な効果として、背筋が伸びて姿勢が良くなる、全身が均整の取れた状態に締まるといった体の変化も見られます。人によっては、立ち姿や後ろ姿も凛々しく変わります。

このほかにつぎのような型があります(宗家伝、参考「日本の古武道」)。

●付棒十二ヶ条(技は表型、裏型と同じ)

●奥棒八ヶ条
石割之事 付裏一ヶ条、上入之事、下入之事、合引之事、引合之事、清眼崩之事

●棒極意五ヶ条
裏八方之事、杖取之事、虎一点霞掛之事、虎乱天狗返之事、奥石割之事

●棒極意四ヶ条
鴨之入首之事、鷲之羽返之事、虎一点之事、霞掛之事

真棒とは

「真棒」とは、四尺六寸二分の長さの棒(真棒)を用いる形であり、「剣棒(間棒)」と「杖・半棒」(剣棒が折れた時の想定)との中間の長さの棒を使う形である。刀と棒の中間的な使い方をします。

真棒は下記の杖(4.2尺)よりも拳ひと握り半ほど長いもので、市販されていないため特別に注文して作って頂います。市販の棒袋(杖用)ではやや寸足らずとなり、きちんと収まらない場合があるので、上記の棒袋(六尺棒用)で代用するのがベターです。

棒を「柔らかく」、「軽く」、「早く」使うのが特徴であり、稽古を深めるごとに体の敏捷性が備わっていきます。相手との打合いにおいては、「軽く」「調子(呼吸)をあわせる」、「卵を握るが如くふわりと握る」ということがポイントになります。
また、武術では間合と拍子が大切ですが、この真棒を稽古することによって、その勘所が習得しやすくなると思われます。

拍子をとるという意味では、音楽に通じるところもあります。なお、その動きは、 下記のように、楽譜のような略号で記されることがあります。

一度、この型を習った人は、この符号(下記)をみれば、動きを思い出せるように工夫されています。詳しくは道場で…

また、真棒には、下記の型を学んだら、全ての型を続けざまに、徐々に拍子を上げて打つ「早打ち」といった稽古方法もあります。これも道場で稽古しましょう。

真棒・表型(shin bou omote gata)

─ 見込構(右手右足が前、左足後)または脇構(右足前、左足後)。左から上(○)退き、下(△)出る。足は草の形の足。残心で散し止める。


下払(shita barai)   見込 下一 上二 止
払巻(harai maki) 見込 下一 上二 下一 逆の巻 止
平受(hira uke) 脇構 逆手十 下一 上二 下一 の巻 止
逆打(saka uchi or gyaku uchi) 脇構 逆手×(横面) 下一 上二 下一 の巻 十 止
肩競(kata zeri) 見込 // 引下一 上二 下一 逆の巻 止
睾丸取(kougann dori) 見込 下一 上二 十 引下一 上二 十 突 止
飛交(tobi chigai) 見込 下一 上二 下一 逆の巻 飛交 ×(横面) 止
撥打(hane uchi) 逆手×(横面) 下一 上二 下一 の巻 十 撥ねかぶり 十 止
平打(hira uchi) 逆手 十 下一 上二 下一 の巻 十 止
取交(tori kawashi) 見込 |/(取交) 引下一 上二 下一 逆の×(横面) 止
腰押車(koshi guruma) 見込 =腰押 引 脇構逆手上一 下一 上二 下一 の巻 止
当車(atari guruma) 見込 下一 上二 下一 逆の ×(当車) 止

 

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